「訪問診療の先生に報告したけれど、ケアマネジャーには伝わっていなかった」
「訪問看護師からのFAXが診療時には届いておらず、薬の調整が遅れた」
在宅医療の現場で働いていると、こうした「情報のエアポケット」に冷や汗をかく瞬間が何度もあります。
私自身、救急・障害児医療の現場を経て、現在は訪問診療クリニックの事務長を務めていますが、多職種連携の難しさは永遠の課題だと感じています。
しかし、この「ズレ」を放置すると、患者様の生活不安や再入院リスクに直結しかねません。
この記事では、厚労省のデータや現場の実例を交えながら、訪問診療・訪問看護・ケアマネジャーの間で起こる「連携のズレ」の原因と、明日から実践できる具体的な解消策を徹底解説します。
なぜ「連携のズレ」は起きるのか?構造的な3つの原因
個人の資質や「忙しさ」のせいにする前に、まずは構造的な原因を理解する必要があります。
厚生労働省の「在宅医療・介護連携推進事業」の資料においても、多職種連携の阻害要因として以下の点が指摘されがちです。
医師は月2回、訪看は週3回、ケアマネは月1回。訪問頻度の違いにより、情報を持っている量と鮮度に格差が生まれます。
「医療機関はFAX文化」「ケアマネは電話中心」「新しい事業所はチャットツール」など、連絡手段が統一されていないことで情報が散逸します。
医療用語と生活用語のニュアンスの違いが、認識のズレを生みます。
現場では具体的にどのようなすれ違いが起きているのでしょうか。
私が経験した事例や、同僚からの相談をもとに整理しました。
1. 訪問診療医・クリニック側の言い分
🥼 医師の悩み
- 「状態変わりなし」という看護記録だけでは、処方調整の判断がつかない。バイタルだけでなく、食事量や顔色など『変化の予兆』が知りたい。
- ケアマネさんから「薬を変えてほしい」と要望があるが、医学的根拠や家族の意向が不明瞭なことがある。
「板挟みで精神的にきつい…」と感じたら。訪問診療の現場特有の悩みと、人間関係をこじらせない対処法をまとめました。
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2. 訪問看護師側の言い分
💉 訪問看護師の悩み
- 指示書に「点滴指示」とあるが、終了条件(水分摂取〇ml以上なら中止など)が書かれておらず、独自の判断ができない。
- 診療後に処方が変わったことを知らされず、前の薬を残薬として管理してしまった。
3. ケアマネジャー側の言い分
📝 ケアマネジャーの悩み
- 医療的な予後(あとどのくらい生きられるか等)が共有されず、サービスの区分変更や看取りの準備が遅れてしまう。
- 医師や看護師が専門用語で話すため、サービス調整に必要な「生活上の留意点」に翻訳するのが難しい。
連携ミスの多くは、実は「相手の職種がどこまで対応できるか」という認識のズレから始まります。
まずは訪問診療と訪問看護、それぞれの役割と限界を正しく把握することが解決の第一歩です。

ズレを解消しチーム力を高める「3つの解決策」
精神論ではなく、「仕組み」で解決することが重要です。
私が事務長として実際に導入し、効果を感じた3つの施策をご紹介します。
① ICTツール(MCS等)の導入と「運用ルール」の徹底
FAXや電話は「言った言わない」の原因になります。
完全非公開型SNSである「MCS(メディカルケアステーション)」などのICTツール活用は必須級です。
ただし、導入するだけでは意味がありません。
✅以下の運用ルールを決めることが重要です。
- 「既読」=「了解」とみなす(返信不要ルールで負担軽減)
- 「緊急」と「報告」のタグ付けをする(医師が見るべき優先度を明示)
- 写真・動画を積極的に活用する(褥瘡の状態や本人の表情はテキストより伝わる)
※ICT導入には、関係事業所のセキュリティポリシー確認や同意書取得が必要です。
② 初回カンファレンスで「役割の境界線」を引く
最初の顔合わせ(退院時カンファレンスや初回訪問)で、以下の点を明確に言語化しておきます。
| 確認項目 | 具体例 |
|---|---|
| 緊急時連絡先 | 平日日中はステーション、夜間休日は当直医、など優先順位を決める。 |
| キーパーソン | 「医療判断は長男」「介護のキーマンは長女」など役割分担を確認。 |
| ゴールの共有 | 「最期まで自宅」か「辛くなったら入院」か、ACP(人生会議)の視点を共有。 |
③ 「一言添える」文化を作る
指示書や報告書といった公的な文書には書けない「ニュアンス」を伝える努力です。
例えば、医師が指示書を出す際に「ご家族が不安が強いので、頻回に訪看に入って安心させてほしい」と一筆添える。看護師が報告書に「医学的には安定しているが、介護疲れが見える」と添える。
この「行間の情報」こそが、ケアマネジャーのサービス調整や医師の処方判断の最大のヒントになります。
多職種連携に関するよくある質問
- 訪問診療と訪問看護の連絡はどこまで共有すべき?
-
急変や状態変化、薬剤変更、家族の希望などは即時連絡が必要です。報告フォーマットを作っておくと負担なく共有できます。
- 医療と介護の支援方針がズレたら、誰が調整する?
-
基本的にはケアマネが全体調整役ですが、診療側が支援方針を示している場合は医師主導での調整も検討を。
- ケアマネが医療情報にどこまでアクセスできる?
-
診療情報提供書や指示書など、本人・家族の同意がある場合は共有可能。地域によっては「同意書様式」の活用が有効です。
もし、あなたがいくら工夫しても連携が改善しない場合、それは個人の問題ではなく「クリニックの運営体制」そのものに原因があるかもしれません。
後悔しないために「連携に強いクリニック」を見極める基準を知っておいてください。

まとめ|連携の主語は常に「患者様・ご本人」
連携がうまくいかない時、私たちはつい「あの事業所は…」「あの先生は…」と主語を相手にしてしまいがちです。
しかし、最も困るのはサービスを受ける患者様ご本人とご家族です。
「この人にとって、今のチーム体制で安心できるか?」
この問いを常に持ち、FAX一本、電話一本の質を見直すことから始めてみませんか。
ICTツールの活用や、ちょっとした報告の工夫で、地域の在宅医療の質は確実に向上します。
連携トラブル以外にも、在宅医療では「こんなはずじゃなかった」という想定外の事態が起こりがちです。
よくある失敗パターンを予習し、先回りで対策を打っておきましょう。


