「そろそろ病状が安定してきたので、次の転院先か施設を探してください」
急性期病院に入院中の親御さんを持つご家族にとって、医師やソーシャルワーカーからのこの言葉は、とても重く響くものです。
「まだ点滴も痰の吸引も必要なのに、病院を追い出されるの?」
「老人ホームって医療処置はしてもらえるの? 費用は高くない?」
そんな不安を抱えるあなたへ。元有料老人ホーム管理者であり、現在は在宅医療クリニックの事務長を務める私が、「老人病院(療養型病院)」と「老人ホーム」の決定的な違いを、現場の裏事情を交えて解説します。
結論から言うと、「治療して良くなる見込みがあるなら病院」「生活の継続と看取りが目的なら老人ホーム」ですが、最近はこの境界線が非常に複雑になっています。
この記事でわかること
- 老人病院(療養病床)と老人ホームの5つの違い
- 「3ヶ月で退院」と言われる本当の理由
- あなたの親御さんに最適な行き先の判断基準
この記事を読み終える頃には、親御さんの状態に合わせて「次にどこへ相談すべきか」が明確になり、焦らずに行動できるようになるはずです。
1. 「老人病院」と「老人ホーム」の決定的な違いとは?
まず言葉の整理ですが、一般的に「老人病院」と呼ばれているものの正体は、主に「療養病床(療養型病院)」や、新しくできた「介護医療院」のことを指します。
老人ホームとの最大の違いは、そこが「治療の場」なのか、「生活の場」なのかという点です。
「そもそも老人ホームにはどんな種類があるの?」という方は、まず以下の全体像を整理した記事からご覧いただくと理解が早まります。
老人ホーム6種類(特養・老健・有料など)の違いと選び方
病院(療養病床)の特徴:あくまで「治療」が優先
病院である以上、主導権を握るのは「医師」です。
24時間体制で看護師が配置されており、濃厚な医療処置が可能です。
しかし、あくまで「医学的管理が必要な状態」だから入院できる場所であり、状態が安定したり、医療の必要性が下がったりすれば、退院(転院・施設入所)を求められます。
部屋も多床室(4人部屋など)が基本で、プライバシーやレクリエーションといった「生活の質」は二の次になりがちです。
老人ホームの特徴:「生活」を支える終の棲家
一方、老人ホーム(特養や有料老人ホーム)は「生活の場」です。
医師は常駐していないことが多く(訪問診療医が対応)、看護師も夜間は不在の施設が一般的です。
その分、介護スタッフによる手厚い生活支援、レクリエーション、美味しい食事など、「人間らしい暮らし」に重きが置かれています。一度入居すれば、基本的には看取り(最期)まで過ごせることが多いのも特徴です。
最近増えている「介護医療院」は、この「病院の医療」と「ホームの生活」の中間を目指した新しい施設です。詳しくはこちらの記事で解説しています。
介護医療院とは?費用・メリット・病院との違いを解説
2. 【比較表】老人病院と老人ホームの5つの違い
ご家族が特に気になる5つのポイントで比較してみましょう。
| 比較項目 | 老人病院(療養病床) | 老人ホーム(特養・有料等) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 医療・治療・リハビリ | 生活支援・介護 |
| 医師・看護師 | 医師は常駐 看護師24時間配置 | 医師は訪問対応 看護師は日中のみが多い |
| 入居期間 | 期限あり(状態安定で退院) | 終身利用が可能(一部除く) |
| 費用相場 | 月10〜20万円 (医療保険の適用あり) | 月10〜30万円以上 (施設により幅が広い) |
| 部屋の環境 | 多床室(相部屋)が中心 | 個室が増えている |
※費用や配置は施設種別により異なります。
6種類の施設ごとの費用相場や、安く抑えるための制度について、さらに詳しく比較しています。
老人ホーム・介護施設の費用相場を徹底比較【2025年版】
違い①:医療体制と「医療区分」の壁
ここが最大のハードルです。療養型病院に入院し続けるためには、国が定めた「医療区分2・3」という基準に該当する必要があります。
- 医療区分3:中心静脈栄養、24時間の点滴、人工呼吸器など
- 医療区分2:1日8回以上の痰吸引、肺炎の治療、難病など
- 医療区分1:上記に当てはまらない(医療必要度が低い)
もし親御さんの状態が「医療区分1」と判断された場合、病院側は低い診療報酬しか受け取れないため、「施設や在宅への退院」を強く勧められる(事実上の追い出し)ことになります。
違い②:費用の仕組み(オムツ代の罠)
「病院の方が安い」というイメージは半分正解で、半分間違いです。
- 病院:医療費には「高額療養費制度」が使えるため、上限額が決まっています。ただし、オムツ代や病衣代、食事代は実費です。
- 老人ホーム:介護保険の自己負担+居住費+食費などがかかります。特定施設(有料老人ホーム等)ではオムツ代が含まれるプランもありますが、実費の施設も多いです。
費用の詳細や減額制度については、以下の記事でシミュレーションしています。
老人ホームの費用を軽減できる制度一覧と活用法
違い③:リハビリの目的
「リハビリをして家に帰してあげたい」という場合、療養型病院よりも「介護老人保健施設(老健)」の方が適している場合があります。
老健は「在宅復帰」を目的とした強化型施設だからです。
リハビリ重視の「老健」にかかる費用や、在宅復帰に向けた活用法はこちらを参考にしてください。
介護老人保健施設(老健)の費用相場と安くする制度
違い④:住環境とプライバシー
生活の質(QOL)に直結するのがこの部分です。
- 病院:基本は4人部屋などの多床室で、カーテンで仕切られているだけです。私物の持ち込みも厳しく制限され、「生活」というより「収容」に近い感覚になることもあります。
- 老人ホーム:近年は「個室」が主流になりつつあります。使い慣れた家具を持ち込んだり、家族が気兼ねなく面会できたりと、「自分の家」に近い環境を作れます。
違い⑤:入居期間と「3ヶ月ルール」
ご家族が最も恐れる「退院勧告」の違いです。
- 病院:一部で「3ヶ月ルール」と呼ばれるように、病状が安定すると退院を促されます。これは病院が「急性期の治療」を優先する場所だからです。
- 老人ホーム:「終の棲家」としての役割が強いため、一度入居すれば、よほどの迷惑行為や医療依存度の急変がない限り、最期まで住み続けられます。
3. どっちを選ぶべき?親の状態別・判断フローチャート
「結局、うちの親はどこなら入れるの?」という疑問に、現場視点でお答えします。
CASE 1:常時医療処置が必要・容体が不安定
おすすめ:療養型病院 または 介護医療院
人工呼吸器、頻繁な吸引、中心静脈栄養などが必要な場合は、医師がそばにいる環境が必須です。
まずは病院のMSW(ソーシャルワーカー)に相談し、転院可能な療養病院を探してもらいましょう。
CASE 2:病状は安定しているが、介護が重い
おすすめ:特別養護老人ホーム(特養)
要介護3以上であれば、費用を抑えて終身利用できる「特養」が第一選択肢です。
ただし待機者が多いため、申し込みだけでも早急に行いましょう。
→特別養護老人ホーム(特養)の基礎知識と入居までの流れ
CASE 3:リハビリをして自宅に帰りたい
おすすめ:介護老人保健施設(老健)
病院と自宅の中間施設です。リハビリ専門職が充実しており、3〜6ヶ月集中的にリハビリを行えます。
CASE 4:比較的お元気・認知症のケアが中心
おすすめ:グループホーム や 有料老人ホーム
認知症があっても、家庭的な雰囲気で生活を送ることができます。ある程度の予算があれば、有料老人ホームの選択肢も広がります。
グループホームとは?認知症対応・入居条件と費用相場
「在宅医療」という第3の選択肢
最近では、「施設には入りたくない、家に帰りたい」という親御さんの希望を叶えるため、訪問診療や訪問看護を駆使して自宅で過ごすケースも増えています。
「ウチの親の状態でも家で看れるの?」と不安な方は、施設と在宅を比較したこちらの記事も参考にしてください。
在宅医療と施設入居どっち?費用と負担をシミュレーション
まとめ:親御さんの「今」だけでなく「未来」を見据えて
老人病院(療養病床)と老人ホームの違いについて解説しました。
- 老人病院(療養型):医療優先。状態改善で退院を求められる可能性あり。
- 老人ホーム:生活優先。終身利用が可能だが、医療対応には限界がある施設も。
- 介護医療院:その中間。医療と生活の両立を目指す新しい選択肢。
大切なのは、親御さんの病状が今後どう変化していくかを予測し、「何度環境を変えさせるか」を最小限にする視点です。
まずは現在の主治医やMSWとよく相談し、並行して資料請求などで情報のアンテナを張っておきましょう。
このサイトでは、さらに詳しい施設ごとの特徴や費用の裏ワザも発信していますので、困ったときはいつでも戻ってきてください。

