「あれ? またダマになっちゃった……」
スプーンですくうと、ゼリーのようにボテッとした塊ができている。それをスプーンの背で必死に潰してから、親御さんの口へ運ぶ。
そんな作業を毎日、毎食繰り返していませんか?
もし、あなたの親御さんがトロミをつけたお茶を飲んで「眉間にシワを寄せている」なら、要注意です。
それは「味がまずい」からではなく、「喉の奥にへばりついて苦しい」という無言のサインかもしれません。
警告:濃すぎるトロミは「窒息」を招きます
多くのご家族が勘違いされていますが、「トロミは濃ければ濃いほど安全」ではありません。
粘りが強すぎると、喉の奥(咽頭)にへばりつき、気道を塞いで窒息事故を引き起こすリスクが跳ね上がります。
この記事では、私たち看護師が医療現場で実践している「絶対にダマを作らせない攪拌(かくはん)テクニック」と、誤嚥性肺炎を防ぐための「正しい濃度の見極め方」を徹底解説します。
今日から、親御さんの「ゴクゴク」という心地よい喉越し音を取り戻しましょう。
【基礎知識】なぜ「トロミ」が必要なのか?
そもそも、なぜお茶や水にトロミをつける必要があるのでしょうか。
「飲み込みやすくするため」というのは正解ですが、医学的にはもっと「時間」に関わる重要な理由があります。
気管の「フタ」が閉まる0.5秒を稼ぐため
私たちが物を飲み込むとき、喉の奥にある「喉頭蓋(こうとうがい)」というフタが倒れて、気管を塞ぎます。
しかし、加齢や障害により、この「フタが閉まるスピード」が遅くなります。
- サラサラの水
フタが閉まるより速く、重力で一瞬で喉の奥へ落ちる → 気管に入って誤嚥! - トロミつきの水
ゆっくりと喉へ流れる → フタが閉まるまでの「時間稼ぎ」ができる。
つまり、トロミ剤は、喉のフタが閉まるのを待ってあげるための「時間調整ツール」なのです。
【絶対禁止】片栗粉での代用はNG
「料理用の片栗粉でいいじゃない」という方がいますが、介護食では厳禁です。
片栗粉(デンプン)は、唾液に含まれる消化酵素「アミラーゼ」によって分解されます。
口に入れた瞬間はトロミがあっても、喉を通る頃にはサラサラの水に戻ってしまい、誤嚥を誘発します。
必ず専用の「トロミ調整食品」を使ってください。
あなたの使い方は大丈夫?「3大・危険なトロミ」
訪問看護の現場でよく見かける、実は危険な使い方がこの3つです。
❌NG1. 目分量シェフ
「パパッとこれくらい」は一番危険。濃度が毎回違うと、脳が「どれくらいの力で飲み込めばいいか」を予測できず、むせ込みの原因になります。
❌NG2. ダマダマ爆弾
粉の溶け残り(ダマ)は、中が粉のままです。これが喉で弾けると、粉が気管に入り込み、激しいむせ込みや窒息を引き起こします。
❌NG3. 追っかけ足し
「あれ、薄いな?」と後から粉を追加するのは厳禁。均一に溶けず、ボコボコとした不快な塊が大量発生します。
看護師直伝!失敗しない「トロミ作り」4つのステップ
誰でも失敗せずに、滑らかなトロミを作る方法。それは「順番」を変えるだけです。
粉を入れてから混ぜるのではなく、「渦(うず)」を作ってから粉を入れる。これがプロの鉄則です。
STEP 1:液体をかき混ぜて「渦(うず)」を作る
まず、コップに入ったお茶や水を、スプーンでぐるぐるとかき混ぜて、洗濯機のような「水流(渦)」を作ります。
※まだ粉は入れません!
STEP 2:渦の中に粉をサッと入れ、30秒混ぜ続ける
水流があるうちに、渦の中心をめがけてトロミ剤を一気に入れます。
そしてすぐに、手を休めずに30秒〜1分間、空気を入れないように手早くかき混ぜます。
STEP 3:【最重要】2分間放置して「熟成」させる
ここが多くの人が知らないポイントです。
混ぜ終わったら、触らずに2〜3分放置してください。
トロミ剤が水分を吸って安定する(水和する)まで待つ時間です。
ここで慌てて飲ませると、お腹の中で膨らんだり、後から固くなったりします。
STEP 4:再攪拌(かくはん)と粘度チェック
最後に、もう一度全体を軽く混ぜて、スプーンですくってみましょう。
ダマがなく、ツヤのある滑らかな状態になっていれば完成です。
どれくらいが正解?「3つの区分」を理解しよう
「ちょうどいいトロミ」とはどれくらいでしょうか?
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類(2021)では、以下の3段階に分けられています。
| 段階 | 見た目の目安 | スプーンを傾けた時 | 対象の目安 |
|---|---|---|---|
| 薄いトロミ (第1段階) | フレンチドレッシング状 | スッと流れる | 時々むせる方 初期の方 |
| 中間のトロミ (第2段階) | とんかつソース状 | トロトロと流れる | ※在宅介護で 最も多いレベル |
| 濃いトロミ (第3段階) | ケチャップ マヨネーズ状 | ポタリと落ちる 形が保たれる | 重度の嚥下障害 ※自己判断危険 |
「ポタージュ」や「とんかつソース」を目指しましょう
多くの在宅患者さんにとって最適なのは「中間のトロミ」です。
スプーンを傾けた時に、水滴にならず、糸を引くようにトロトロと落ちる状態がベストです。「マヨネーズ状」までいくと、多くの場合は濃すぎます。
飲み物のトロミ調整だけでなく、毎日の「ミキサー食作り」に限界を感じていませんか?
そんなあなたへ。親御さんを誤嚥から守り、調理の手間をなくす「魔法のムース食」の活用法はこちらから。

よくあるトラブルQ&A(よくある失敗への対処法)
- 濃くなりすぎてしまいました。水を入れてもいい?
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水を入れるのはNGです。濃すぎるトロミに水を足しても、うまく混ざらず「固まり」と「水」に分離して誤嚥の原因になります。正しい薄め方は、「同じ飲み物(トロミなし)」を足してよく混ぜることです。
- ダマができてしまいました。茶こしで取れば飲めますか?
-
原則として「作り直し」を推奨します。茶こしで大きなダマを取り除いても、目に見えない微細な「溶け残り」が喉で張り付くリスクがあります。「もったいない」と感じるかもしれませんが、肺炎による入院リスクを考えれば、新しいコップで作り直すのが最も安全です。
- 牛乳や濃厚流動食が固まりません。
-
タンパク質やイオン飲料は固まりにくい性質があります。牛乳、オレンジジュース、栄養剤(エンシュア等)は、普通のトロミ剤ではなかなか固まりません。これらには、「牛乳・流動食専用」のトロミ剤を使うか、混ぜる時間を通常の2倍(1〜2分)確保してください。
リンク - 時間が経つとトロミが弱くなる(シャバシャバになる)気がします。
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唾液や温度の影響を受けている可能性があります。スプーンを口につけてから再びコップに戻すと、唾液中の消化酵素(アミラーゼ)がトロミを分解してしまいます(特にデンプン系)。「飲むたびにスプーンを変える」か、酵素の影響を受けない「キサンタンガム系」のトロミ剤に変更してください。
- 薬を飲むときも、この「トロミ水」で飲んでいいですか?
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問題ありませんが、「服薬用ゼリー」の方がより安全です。粉薬などをトロミ水で飲むと、口の中に薬が散らばって苦味を感じたり、張り付いたりすることがあります。薬を包み込んでツルッと飲み込める市販の「服薬用ゼリー」の活用も検討してください。
- 味が変わって飲んでくれません。
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トロミ剤の「世代」を確認してください。古いデンプン系のものは味や匂いがあります。現在は「キサンタンガム系(第3世代)」という、無味無臭で透明度が高いタイプが主流です。「クリアタイプ」と表記のあるものを選ぶと飲みやすさが劇的に改善します。
▼ 看護師も愛用する「失敗しない」トロミ剤
クリニコ つるりんこ Quickly
第3世代(キサンタンガム系)
お茶の色も味も変えず、サッと溶ける定番品。ベタつかないので、飲み込んだ後の「喉への張り付き」も軽減できます。


まとめ:トロミは「薄さ」が命です
介護をしていると、どうしても「誤嚥させたくない」という不安から、トロミを濃くしてしまいがちです。
しかし、思い出してください。私たちが目指すのは、親御さんが「安全に」かつ「美味しく」水分を摂ることです。
今日の重要ポイント
- トロミ剤は「渦(うず)」を作ってから入れる。
- 混ぜ終わったら「2分待つ(熟成)」。
- 濃すぎるトロミは窒息のもと。目指すは「とんかつソース」。
まずは今日から、「目分量」をやめて「計量スプーン」を使うことから始めてみてください。
そのひと手間が、誤嚥性肺炎から親御さんを守る、最強の盾になります。

