「腎臓病の食事制限中に、焼肉なんて食べていいの?」
「リンやカリウムが怖くて、外食誘われても断っている……」
そんなふうに、楽しみを諦めていませんか?
実は、選び方と量さえ間違えなければ、焼肉は腎臓病の方にとって優秀なエネルギー源になります。
腎臓病の食事療法(特に保存期)で最も辛いのは、「低タンパク質」と「十分なカロリー確保」の両立ではないでしょうか。あっさりしたものばかり食べて痩せてしまうと、かえって腎臓に悪影響(フレイルや筋肉の分解)を及ぼすことがあります。
そこで役立つのが「焼肉」です。
⚠️ただし、何も知らずに食べると、一晩で塩分とリンの制限量をオーバーしてしまう危険な場所でもあります。
この記事では、医療従事者の視点と公的なデータに基づき、「クレアチニン値を守りながら楽しむ焼肉攻略法」を解説します。
この記事の結論
- ホルモン・レバーは「リン」の塊なので絶対NG
- 「赤身」より「カルビ(脂身)」を選ぶのが正解
- タレは塩分過多!「素焼き+レモン」を徹底する
しっかり知って、賢く楽しく過ごしていきましょう!
なぜ「ホルモン禁止」なのか?透析を早めるリンの恐怖
まず、焼肉で最も注意すべきは「リン」です。
腎機能が低下すると、余分なリンを尿として排出できなくなります。
血中のリン濃度が高まると、血管の石灰化が進み、動脈硬化や心筋梗塞のリスクが跳ね上がります。
カルビ vs レバー!リン含有量の決定的差
「同じお肉なら大差ないでしょう?」と思うかもしれませんが、部位によってリンの含有量は劇的に異なります。
文部科学省の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のデータを元に比較してみましょう。
| 部位(100gあたり) | リン含有量 | タンパク質 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 和牛カルビ(脂身つき) | 120mg | 11.0g | ○ 推奨 |
| 和牛もも(赤身) | 170mg | 19.2g | △ 注意 |
| 牛レバー(肝臓) | 350mg | 19.6g | × 危険 |
| 丸腸(小腸) | 130mg | 9.9g | × 脂質過多 |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より作成
ご覧の通り、レバーのリン含有量はカルビの約3倍です。
さらに内臓系(モツ、ホルモン)はプリン体も多く、尿酸値を上げる原因にもなります。
加工肉(ソーセージ・ベーコン)はもっと危険!
焼肉のサイドメニューにあるソーセージには、保存料として「無機リン」が使われています。
肉に含まれる「有機リン」の吸収率が60%程度なのに対し、添加物の「無機リン」は90%以上が体内に吸収されてしまいます。絶対に避けましょう。
看護師直伝!数値が悪化しない「部位選び」と「食べ方」
では、具体的にどのお肉をどう食べれば良いのでしょうか。
腎臓病(保存期)の食事療法の原則である「低タンパク・高カロリー・低塩分」に沿った正解ルートを紹介します。
1. 「赤身」より「脂身(カルビ)」を選ぶ逆転の発想
一般的なダイエットや健康指導では「脂の少ない赤身肉」が推奨されますが、腎臓病(特に透析導入前の保存期)の方は逆です。
- 赤身肉:タンパク質密度が高く、カリウム・リンも多い。
- 脂身(カルビ・バラ):脂質のおかげで、100gあたりのタンパク質・リンが少ない。
少ないタンパク質量で効率よくエネルギー(カロリー)を稼ぐために、あえて脂の乗ったカルビや、薄切りのタン(塩)を選んでください。
2. 「タレ」は厳禁!塩・レモン・わさびを活用
焼肉店のタレは、醤油と砂糖の濃縮液です。
小皿1杯のタレには約2.0g前後の塩分が含まれており、これだけで1食分の塩分制限(約2.0g)に達してしまいます。
✅STEP 1:注文時は「塩」指定
揉みダレ(最初から肉にかかっているタレ)も塩分を含みますが、タレ味よりは塩味の方がリスクは低いです。
✅STEP 2:つけダレは使わない
テーブルのタレは使いません。「レモン汁」「わさび」「にんにく(少量)」で風味をつけます。
✅STEP 3:どうしても味が欲しいなら「ちょん付け」
どうしてもタレの味が恋しい時は、肉の端っこに数ミリだけつける「ちょん付け」で我慢しましょう。
全体をドボンと浸すのはNGです。
3. よく焼いてカリウムを落とす
肉に含まれるカリウムは、加熱することで細胞膜が壊れ、肉汁(ドリップ)と一緒に出ていきます。
レアやミディアムではなく、ウェルダン(しっかり焼き)にすることで、カリウム摂取量をわずかですが減らすことができます。
シミュレーション:これで安心!理想の注文例
「結局、どれくらい食べていいの?」という疑問にお答えします。
一般的なタンパク質制限(1日40〜50g程度の方)を想定した、満足感のある組み合わせ例です。
【腎臓に優しい焼肉セット例】
- カルビ(またはバラ):5〜6枚
※約80g=タンパク質 約10g - 牛タン(塩):2〜3枚
※約30g=タンパク質 約5g - ご飯(白米):中ライス(150〜200g)
※しっかり食べてエネルギー確保。タンパク質 約5g - 焼き野菜:ピーマン、玉ねぎ、キャベツなど
※カボチャやイモ類はカリウムが高いので避ける - 飲み物:お水 または 氷少なめのウーロン茶
合計タンパク質:約20g前後
※一般的な外食の許容範囲内に収まります
サイドメニューの注意点
- キムチ・カクテキ:塩分の塊です。一切れ程度に留めましょう。
- ワカメスープ・卵スープ:汁物に塩分が多く溶け込んでいます。具だけ食べるか、注文しないのが無難です。
- ビビンバ・冷麺:これらだけで塩分3g〜5gになることがあります。ご飯は「白米」一択です。
「食べすぎた!」翌日は宅配弁当で数値をリセット
いくら気をつけていても、楽しい席では「ついついカルビを2〜3枚多く食べてしまった……」ということもあるでしょう。
そんな時は、くよくよ悩むよりも「翌日の食事」で帳尻を合わせれば大丈夫です。
外食でタンパク質・塩分を過剰摂取した後は、続く2〜3食を厳密な制限食にして、腎臓を休ませてあげる必要があります。
これを「リセット食(調整食)」と呼びます。
しかし、家庭料理で「タンパク質10g以下、塩分1.5g以下」かつ「美味しい食事」を作るのは至難の業です。
そこで、私が患者さんにおすすめしているのが、腎臓病対応の「冷凍宅配弁当」をストックしておくことです。
冷凍庫に制限食のお弁当があれば、「昨日は焼肉を楽しんだから、今日はこのお弁当でしっかり管理しよう」と、メリハリのある生活が送れます。
私が実際に試食して、数値管理と味の両立ができていた宅配弁当を以下の記事で紹介しています。
外食を楽しむための「お守り」として活用してください。

腎臓病がある方から焼肉関係でよくある質問
- 腎臓病ですが、焼肉のタレは「減塩」なら使ってもいいですか?
-
基本的にはおすすめしません。
「減塩タレ」であっても、一般的なタレに比べて塩分が多少低いだけで、カリウムやリンが含まれている場合があります。また、タレを使うとご飯が進んでしまい、結果的にトータルの塩分摂取量が増えがちです。
やはり「塩(少量)+レモン汁+わさび・にんにく」で食べるのが、最も確実に数値を守れる方法です。 - 牛肉より「鶏肉」や「豚肉」の方が腎臓に優しいですか?
-
部位によりますが、実は「牛肉」が優秀な場合もあります。
鶏肉(ささみ・むね)や豚ヒレ肉はヘルシーですが、タンパク質密度が高いため、少量で制限値に達してしまいます。
透析前の保存期の方にとって重要な「低タンパク・高カロリー」を目指すなら、脂の乗った「牛カルビ」や「豚バラ」の方が、同じ100gを食べた時のタンパク質摂取量を抑えられます。種類よりも「脂身の量」で判断しましょう。 - 野菜ならいくら食べても大丈夫ですか?
-
カリウムの多い野菜に注意が必要です。
焼肉店でよく出る「カボチャ」「サツマイモ」「トウモロコシ」はカリウムが非常に高いので避けてください。
比較的安心なのは「キャベツ」「玉ねぎ」「ピーマン」です。これらもしっかり焼くことでカリウムを減らせます。また、サラダ(生野菜)はカリウムが多いので、焼き野菜を選ぶのが賢明です。 - お酒(アルコール)は飲んでも平気ですか?
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担当医の許可があれば、種類を選んで少量のみ可能です。
ビールはプリン体とカリウムが多いため避けましょう。比較的カリウムが少ないのは「焼酎」「ウイスキー」「ジン」などの蒸留酒です。
ただし、アルコールは利尿作用で脱水を招き、腎機能を悪化させるリスクがあります。「水割り」や「薄めのハイボール」を1杯程度にして、同量のお水(チェイサー)を必ず飲みましょう。 - 食べ放題に行きたいのですが、対策はありますか?
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正直、食べ放題は「避ける」のが一番の対策です。
「元を取ろう」という心理が働き、無意識にタンパク質と塩分を過剰摂取してしまうリスクが非常に高いためです。また、食べ放題の安価な加工肉には「無機リン(添加物)」が含まれている可能性もあります。
質の良いお肉を単品で注文し、ゆっくり味わうスタイルの方が、食後の数値への不安も少なく、心から食事を楽しめます。 - リン吸着薬などの薬を飲み忘れたらどうすればいいですか?
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気づいた時点ですぐに服用するか、主治医の指示に従ってください。
特に「リン吸着薬」は、食事中のリンと結合して便として排出する薬なので、食直後(または食事中)に飲まないと効果が激減します。
焼肉はリン摂取量が増えるイベントですので、薬は絶対に忘れないよう、テーブルの上に最初から出しておくなどの工夫をしましょう。
まとめ:賢い患者さんは焼肉を味方につける
腎臓病だからといって、焼肉を一生我慢する必要はありません。
むしろ、効率よくエネルギーを摂れる焼肉は、低栄養を防ぐための強力なツールになり得ます。
- 部位選び ホルモン・レバーはNG。
- 脂の乗ったカルビ・バラを選ぶ。
- 味付け タレは使わず、塩・レモン・わさびで食べる。
- 焼き方 よく焼いてカリウムを落とす。
- リカバリー 食べすぎたら、翌日は宅配弁当などで厳密に調整する。
このルールを守って、久しぶりの焼肉を心から楽しんでくださいね。
ストレスを溜めずに長く食事療法を続けることこそが、透析を遠ざける一番の近道です。

