「サ高住とグループホーム、親にはどちらが合うのか…」。制度の違いや費用、介護・医療体制を知らないまま選んでしまうと、あとから「思っていた生活と違った」「こんなにお金がかかるとは…」と後悔につながりがちです。
この記事では、看護師(HCU)→重症心身障害→高齢者施設管理者→在宅医療クリニック事務長として現場を見てきた筆者が、サ高住とグループホームの違い・向いている人・見学のチェックポイントを、家族目線でわかりやすく解説します。
最初に結論からお伝えすると、施設選びで一番大事なのはこの2つです。
- 認知症の有無と進行度
- 生活の自由度をどこまで維持したいか
この2点が整理できれば、大きなミスマッチはかなり減らせます。
- 認知症があり、家庭的な環境で手厚い支援が必要 → グループホーム
- 認知症が軽度〜なし、自由度を保ちながら必要な介護だけ受けたい → サ高住
この判断軸は、厚生労働省が定める制度区分(サ高住=高齢者向け住宅/グループホーム=地域密着型介護保険サービス)にも沿っており、全国の相談現場で最も一般的なアプローチです。
この記事でわかること
- サ高住とグループホームの制度上の違い
- 認知症・医療ニーズ・費用から見た「向いている人」
- 見学時に必ずチェックすべき8つのポイント
- 家族会議で整理すべき「優先順位」の決め方
サ高住とグループホームの目的・役割の違い

まずは、そもそもサ高住とグループホームが「何を目的とした施設なのか」を整理しておきましょう。
ここが押さえられると、「うちの親はどちらを軸に考えるべきか」が一気に見えやすくなります。
サ高住:高齢者の「住まい」を提供する住宅サービス
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)は、あくまで「賃貸住宅」+「安否確認・生活相談などのサービス」がセットになった“住まい中心”の仕組みです。
- 生活の自由度が高い(外出・外泊も原則自由)
- 必要な介護サービスは、外部事業所(訪問介護・訪問看護など)を契約して追加
- 夫婦で入居できる間取りの物件もある
- 訪問診療を導入すれば、中程度までの医療ニーズには幅広く対応可能
メリットを一言でいうと「選べる自由」です。
ただしその裏側では、
- どのサービスをどの程度入れるか
- どこまで家族が関わるか
といったことを家族側で設計する必要があり、「自由=家族の判断負担」になりやすい面もあります。
グループホーム:認知症の方が少人数で暮らす介護施設
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、介護保険の地域密着型サービスに属し、認知症の人が5〜9人の小さな単位(ユニット)で共同生活を送る介護施設です。
- 認知症ケアに特化したスタッフが配置
- 少人数で落ち着いた家庭的な環境
- 調理・洗濯・掃除などを可能な範囲で一緒に行い、能力維持を図る
- 家族の介護負担が大きく軽減される(夜間対応も含めてプロに任せられる)
一方で、
- 医療的ケアをあまり多く行えない(吸引・点滴・頻回な処置など)
- 医療依存度が上がると、病院や他施設への転居になることもある
つまり、「認知症ケアには強いが、医療には限界がある」という点を理解しておくことが大切です。
| 項目 | サ高住 | グループホーム |
|---|---|---|
| 制度区分 | 高齢者向け住宅(賃貸) | 介護保険(地域密着型サービス) |
| 入居条件 | 60歳以上、または要支援・要介護 | 認知症の診断+要支援2以上 |
| 生活スタイル | 自由度が高い・個別性重視 | 家庭的・共同生活・見守り手厚い |
| 費用イメージ | 家賃+生活費+介護サービス利用料( 利用量に応じて増減) | 介護保険の定額部分+家賃+食費+光熱費( 比較的予測しやすい金額) |
| 医療対応 | 訪問診療・訪問看護を導入すれば、 在宅医療レベルまで対応可能なことも | 軽〜中等度の医療が中心。 重度化すると転居が必要な場合あり |
| 人数規模 | 数十室の大規模〜小規模まで多様 | 1ユニット5〜9名(少人数) |
| 退去条件 | 重度認知症での行動障害・ 24時間の医療管理が必要な場合など | 医療依存度の上昇・看取り非対応・ 重い行動障害など |
このように、両者は「どちらが良いか」ではなく「どちらが本人に合うか」で選ぶべき施設です。

サ高住の特徴をさらに深掘り

ここからは、サ高住についてもう一歩踏み込んで具体的に見ていきます。
入居条件・費用の内訳だけでなく、メリット・デメリットや向いている人の特徴まで整理しておくと、他の選択肢とも比較しやすくなります。
入居条件と費用の仕組み
サ高住の大まかな入居条件は、次の通りです。
- 60歳以上(夫婦の場合はどちらかが60歳以上でOKの物件もあり)
- 要支援・要介護認定の有無は問わない(自立高齢者も可)
費用の内訳イメージは次の通りです(2025年時点の全国相場の目安・地域や物件グレードにより幅あり)。
- 家賃:おおむね 6〜10万円前後(都市部はもっと高額な場合も)
- 共益費・管理費:1〜2万円
- 生活支援サービス費(安否確認・相談など):1〜3万円
- 食費:3.5〜4万円前後(食事付きの場合)
- 介護保険サービス利用料:利用量に応じて変動
トータルでは月15〜20万円前後がボリュームゾーンですが、介護度が高くなり訪問介護などの利用回数が増えると、20万円台後半〜それ以上になるケースも珍しくありません。
よくある失敗ポイント
「家賃だけ見て決めたら、介護サービスを足していくうちに想定より高くなった…」
→ サ高住は『家賃+生活費+介護サービス費の合計』で比較するのがおすすめです。
サ高住のメリット
- 自宅に近い感覚で暮らせる(家具や家電も基本的に持ち込み)
- 外出・外泊・家族との外食など、生活の自由度が高い
- 介護・医療サービスを柔軟に組み合わせられる
- 夫婦同室・隣室など、二人暮らしを続けやすい物件もある
- 在宅医療クリニックと連携していれば、在宅酸素・インスリンなどにも対応しやすい
サ高住のデメリット
- 認知症が進行すると、見守りの限界が早く来ることがある
- 24時間の介護スタッフ常駐ではない物件も多い
- 介護サービスの利用量次第で、月額費用が大きく変動する
- 事業者による「当たり外れ」(サービスの質の差)が大きい
サ高住が向いている人
- 認知症が軽度、または診断はあるが行動障害は強くない
- 「自分のペースで暮らしたい」という希望が強い
- 医療ニーズはあるが、24時間の医療管理までは必要ない
- 夫婦で一緒に暮らし続けたい
- 家族がある程度、見守りや通院同行などに関われる


グループホームの特徴をさらに深掘り

次に、グループホームについて詳しく見ていきます。
認知症ケアに特化した施設だからこその安心感と、医療面や自由度に関する限界・注意点の両方を知っておくことで、「入ってから想像と違った」を防ぎやすくなります。
入居条件と費用の目安
グループホームは、次の条件を満たした方が対象です。
- 認知症の診断がある
- 要支援2以上の要介護認定
- 原則として「施設所在地と同じ市区町村の住民」であること
費用の内訳は、
- 介護保険サービス費(要介護度に応じた定額+加算)
- 家賃
- 食費
- 光熱水費・日用品費 など
全国の相場としては、月15〜25万円前後が一つの目安です(入居一時金は0〜数十万円と施設により差があります)。
グループホームのメリット
- 認知症専門のケア体制が整っている(声かけ・環境調整が得意)
- 少人数で、職員の目が届きやすい落ち着いた環境
- 家事や簡単な作業を一緒に行い、ADL・認知機能の維持を図る
- 夜間もスタッフが常駐し、徘徊や不眠への対応が可能
- 家族の介護負担が大幅に軽減される
グループホームのデメリット
- 医療対応の幅はそこまで広くない(医療依存度が高い場合は不向き)
- 生活の自由度はサ高住より低い(外出・外泊には事前相談が必要)
- 住民票の制限があり、希望エリアにすぐ入れないこともある
- 定員が少なく、人気の地域では空き待ちが発生しやすい
グループホームが向いている人
- 認知症の症状が進行してきている
- 夜間の不安・徘徊・妄想などで、自宅での見守りが限界に近い
- コンロの消し忘れ・外出して帰れないなど、自宅では危険が増えてきた
- 一人暮らしや老老介護で、日常生活が成り立たなくなってきた
- 家族の心身の負担が限界に近づいている


医療ニーズから見たサ高住・グループホームの選び方

施設選びで見落とせないのが医療ニーズです。
同じ「要介護3」でも、医療ニーズがほぼゼロの人と在宅酸素や頻回な処置が必要な人では、選ぶべき施設が変わってきます。
サ高住で対応しやすい医療ニーズ
訪問診療・訪問看護を導入しているサ高住の場合、次のようなケースに対応していることが多いです。
- 在宅酸素療法(HOT)
- 糖尿病のインスリン注射
- 一部の胃ろう・経管栄養(対応可否は施設・主治医による)
- 人工透析患者の送迎や通院の調整
- 軽〜中等度の心不全・呼吸器疾患など
ただし、これは「そのサ高住がどれだけ在宅医療に慣れているか」によって大きく変わります。見学の際は、
- どの在宅医療クリニックが入っているか
- 訪問診療の頻度・緊急往診の有無
を必ず確認しましょう。
グループホームで対応しにくい医療ニーズ
グループホームは、あくまで「生活の場」+「認知症ケア」が中心であり、次のようなケースは難しいことが多いです。
- 24時間の医療管理が必要な状態
- 長期的な点滴管理・中心静脈栄養など
- 頻回な吸引・人工呼吸器など
- がん終末期で、日々容態が大きく変化するケース(看取り対応可の施設も一部あり)
今後の病状の見通しについては、主治医・ケアマネージャー・在宅医療クリニックと事前に情報を共有し、どこまで施設で見ていけるかを確認しておくと安心です。


見学時に必ずチェックしたい8つのポイント

施設選びの成功は、「見学でどこまで確認できるか」にかかっています。
パンフレットやホームページでは見えない部分こそ、しっかり見ておきたいポイントです。
チェックリスト(印刷して持っていくのがおすすめ)
- 夜間スタッフの配置人数(サ高住かグルホかに関わらず重要)
- 認知症ケアの経験年数・実績(特にグループホーム)
- 往診医・訪問看護・薬剤師との連携体制(緊急時の対応含む)
- 看取り対応の可否(最期までいられるのか)
- 介護度が上がったときの費用変動(目安金額を具体的に聞く)
- 入浴回数・レクリエーション内容(「楽しく暮らせるか」の指標)
- 職員の定着率と表情(笑顔・声かけ・忙しさの雰囲気)
- 入居者の様子(表情・服装・爪・髪などの清潔感も要チェック)
ポイント:
サ高住は事業者間の差が非常に大きいため、最低2〜3カ所は見学して比較することを強くおすすめします。
老人ホーム・介護施設 見学チェックリスト
ℹ️基本情報・契約条件
- 月額費用(家賃・食費・管理費・その他)
- 入居一時金や敷金の有無と返還条件
- 契約形態(終身利用型・定期利用型など)
- 退去条件と手続き方法
⚕️医療・介護体制
- 提携医療機関の有無と診療頻度
- 看護師の配置(看護師1人あたりの利用者数)
- 夜間の医療対応(オンコール体制・緊急搬送先)
- 介護職員の配置(介護職員1人あたりの利用者数)
- 夜勤職員の人数と配置時間
🏠生活環境
- 居室の広さ・設備(トイレ・洗面・収納)
- 共用スペース(食堂・浴室・談話室)の清掃状況
- 食事の内容と提供時間(試食の可否)
- 入浴回数や時間帯の柔軟性
🪅サービス内容
- レクリエーションや外出イベントの頻度
- 個別対応の可否(食事形態・介護方法の調整など)
- 生活支援サービス(掃除・洗濯・買い物代行)
- 家族の面会ルール(時間・予約方法)
🦺安全・安心面
- 防災設備(スプリンクラー・避難経路)
- 認知症対応の経験・実績
- 転倒・誤嚥など事故発生時の対応フロー
- 他入居者や職員の雰囲気(挨拶やコミュニケーションの様子)
家族の「介護方針」を言語化する重要性

施設選びで迷走しがちなご家族の多くは、
「何を優先するか」が家族の中でバラバラ
という状態になっています。
よく出てくるキーワードは、例えば次のようなものです。
- 「費用をできるだけ抑えたい」
- 「できるだけ自由に暮らしてほしい」
- 「とにかく手厚い介護を優先したい」
- 「住み慣れた地域からは離したくない」
- 「医療がしっかりしている場所でみてほしい」
しかし、
- 自由度と手厚い介護
- 費用の安さと医療・介護の充実
は、しばしばトレードオフ(両立しにくい関係)になります。
家族会議で決めておきたいこと
- 最優先は「安全」「自由」「費用」「医療」「地域性」のどれか
- どこまでなら「我慢してもよい」のか(例:費用は◯万円までなど)
- 家族はどこまで通う・関わるつもりなのか
これを言語化してから相談窓口や見学に行くと、質問の質が上がり、施設側もより具体的な提案がしやすくなります。
よくある質問
- サ高住とグループホーム、まず何を基準に選べば良いですか?
-
いちばんの基準は認知症の有無・進行度と生活の自由度をどこまで保ちたいかです。認知症が進んでいる場合はグループホーム、自由度を優先したい場合はサ高住が出発点になります。
- サ高住とグループホームでは、どちらが費用を抑えられますか?
-
地域・物件によりますが、軽度の介護であればサ高住の方が安くなるケース、介護量が多い場合はグループホームの方が月額が読みやすいケースもあります。家賃だけでなく、介護サービス費を含めた総額で比較することが重要です。
- 医療ニーズが高い親はサ高住・グループホームどちらが向いていますか?
-
在宅医療クリニックと連携している医療対応に慣れたサ高住の方が選択肢は広い傾向があります。ただし、24時間の医療管理が必要な場合は、医療機関や介護医療院など別の選択肢も含めて検討する必要があります。
- グループホームでも最期まで看取ってもらえますか?
-
看取り対応をしているグループホームもありますが、施設ごとに方針が異なります。見学時に「どこまで看ていただけますか?」と必ず確認し、主治医とも方針を共有しておくと安心です。
- サ高住に入ってから認知症が進んだ場合、どうなりますか?
-
施設の体制によりますが、徘徊・夜間不穏・行動障害などが強くなると、サ高住での生活が難しくなり、グループホーム等への転居を勧められることがあります。入居前に「認知症が進んだ場合の対応方針」を確認しておきましょう。
- 遠方に住む家族でも、サ高住・グループホームに任せて大丈夫ですか?
-
物理的には可能ですが、通院同行・緊急時対応・入退院支援などが必要になる場面も多いです。遠方の場合は、地域包括支援センター・在宅医療クリニック・ケアマネと連携し、家族の代わりに動ける体制を整えることがポイントです。



まとめ|サ高住かグループホームか、どう選ぶ?

最後に、この記事のポイントを整理します。
- 認知症が進んでいる・夜間の不安や徘徊がある → グループホームが軸
- 自由度を保ちながら、必要な介護・医療だけ受けたい → サ高住が軸
ただし、実際の選択は次の要素のバランスで決まります。
- 本人の状態(認知症の有無・進行度、身体機能)
- 医療ニーズ(軽度〜中度〜重度)
- 費用の許容範囲(月◯万円までなど)
- 家族の距離感・介護にかけられる時間と体力
- 本人の性格・これまでの生活スタイル・希望
施設入所は「家族の介護の終わり」ではなく、本人と家族の新しい生活のスタートです。焦らずに複数の施設を見学し、現場スタッフの雰囲気や入居者の表情など、数字に出ない部分も含めてトータルで判断していきましょう。
「サ高住とグループホーム、どちらが良いか」「この状態ならどこまで在宅で頑張れるか」など、お悩みがあれば専門職に相談した方が早く、心も軽くなります。
病院の相談員・MSWやケアマネージャー、施設紹介の会社を頼って相談していきましょう。
この記事の内容は、厚生労働省・国土交通省の制度情報および、現場での実務経験をもとに作成しています。詳細な制度や最新情報は、以下の公的サイトもあわせてご確認ください。
- 厚生労働省:高齢者向け住まい・介護保険サービスの案内
- 厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(オレンジプラン)
- 国土交通省:サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム
- 自治体の介護保険サービス案内ページ

