「布団に入っても、目が冴えてしまって眠れない」
「睡眠薬を使おうか迷っているけれど、副作用や依存が怖い」
毎晩訪れる不安な時間、本当にお辛いですよね。
私はこれまで、救急医療の現場や高齢者施設の管理者として、数多くの「眠れない悩み」に向き合ってきました。
不規則な夜勤生活で私自身が睡眠障害に悩んだ経験もあります。
そこで痛感したのは、「夜寝る前の努力だけでは、不眠は根本解決しない」という事実です。
実は、夜の快眠を作っているのは、寝る前のハーブティーでも高い枕でもなく、「朝起きた瞬間からの行動」なのです。
薬に頼らず、人間本来のリズムを取り戻すための「1日の過ごし方」を、看護師としての専門的な視点と現場の知恵を交えて解説します。
この記事でわかること
- 睡眠薬に頼る前に見直すべき「人体のメカニズム」
- 看護師が教える「体内時計リセット」24時間スケジュール
- 今日からできる「セロトニン貯金」の具体的な食事・行動
なぜ「夜の快眠」に「朝の行動」が必要なのか?
「眠れない」と相談に来られる方の多くは、寝る直前の行動(スマホをやめる、ストレッチをする等)に注目しがちです。
もちろんそれも大切ですが、生理学的な視点で見ると、勝負はもっと前から始まっています。
睡眠ホルモン「メラトニン」の材料は「昼」に作られる
自然な眠気を誘うホルモンを「メラトニン」と呼びます。このメラトニン、実は夜になって急に湧いてくるわけではありません。
メラトニンの材料となるのは、「セロトニン」という脳内物質です。
セロトニンは、朝から昼にかけて太陽の光を浴びたり、リズム運動をすることで分泌されます。
ホルモンのバトンタッチ
【朝〜昼】セロトニン(幸せホルモン)
↓
(約14〜16時間後)
↓
【夜】メラトニン(睡眠ホルモン)
つまり、「昼間にセロトニンをしっかり出しておかないと、夜のメラトニン(睡眠薬代わりの物質)が枯渇してしまう」のです。
体内時計のリセットボタンは「朝の光」
人間の体内時計は、実は24時間ちょうどではなく、平均して24時間10分〜24時間30分程度だと言われています。
何もしないで放っておくと、毎日少しずつ後ろにズレていきます。
このズレをリセットし、地球の24時間時間に合わせるための唯一にして最強のスイッチが「朝の太陽光」です。
私が施設で働いていた頃、昼夜逆転してしまった入居者様に最初に行うケアも、「朝、カーテンを開けて窓際にお連れすること」でした。
それくらい、光の力は薬よりも強力なのです。
看護師が提案する「体内時計リセット」24時間ルーティン
では、具体的にどのようなスケジュールで過ごせば、効率よくセロトニンを増やし、夜の快眠につなげることができるのでしょうか。
薬に頼る前に試していただきたい、理想的なタイムスケジュールをご紹介します。
06:00〜07:00起床:光のシャワーでスイッチON
起きたらまず、カーテンを全開にして15秒以上、窓際で光を浴びてください。
曇りの日でも、窓際の明るさは2,500ルクス以上あり、体内時計をリセットするには十分です(室内の照明は通常500ルクス程度なので足りません)。
- ポイント:ガラス越しでOK。直接太陽を見る必要はありません。
- NG行動:暗い部屋でスマホをダラダラ見る(ブルーライトは脳を覚醒させますが、体内時計のリセットに必要な照度には足りません)。
07:00〜08:00朝食:メラトニンの「材料」を補給
朝食には、セロトニンの材料となる「トリプトファン」を含む食材を取り入れましょう。
また、咀嚼(そしゃく)というリズム運動も、脳のセロトニン神経を活性化させます。
バナナ1本でも良いので、お腹に入れることが大切です。
12:00〜13:00昼休み:5分の散歩でセロトニン活性化
ランチなどで外に出る際、少し遠回りをして歩きましょう。
「歩行」などの一定のリズムを刻む運動は、セロトニン分泌を促します。
日中の活動量を上げることで、夜に適度な疲労感(睡眠圧)を作ることができます。
13:00〜15:00魔の時間帯:昼寝は「20分」が鉄則
昼食後に眠気が来るのは生理現象ですが、ここで注意が必要です。
昼寝のゴールデンルール
- 15時までに済ませる
- 15分〜20分以内にする
30分以上の昼寝は深い睡眠に入ってしまい、夜の睡眠欲求を「先食い」してしまいます。
高齢者の方で「夜眠れない」という方の多くは、昼間に1時間以上うとうとしているケースが非常に多いです。
19:00〜21:00帰宅後:照明を落とし「夜モード」へ
帰宅したら、部屋の照明を少し落としましょう。
コンビニの真っ白な光や、明るすぎるリビングの照明は、せっかく分泌され始めたメラトニンを抑制してしまいます。
暖色系(オレンジ色)の間接照明などに切り替えるのがおすすめです。
就寝90分前入浴:深部体温をコントロール
人は体の中心の温度(深部体温)が下がるときに強い眠気を感じます。
お風呂で一度体温を上げ、お風呂上がりから90分ほどかけて徐々に体温が下がっていくタイミングが、最もスムーズに入眠できます。
シャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯(38〜40℃)に浸かるのがリラックス(副交感神経優位)への近道です。
【コラム】何を食べる?トリプトファンを多く含む食材
セロトニンの材料となる必須アミノ酸「トリプトファン」は、体内では生成できないため食事から摂る必要があります。
朝食にこれらをプラスするだけで、夜の睡眠の質が変わります。
| 食材カテゴリー | おすすめのメニュー例 |
|---|---|
| 大豆製品 | 納豆、味噌汁、豆乳、豆腐 |
| 乳製品 | 牛乳、ヨーグルト、チーズ |
| 果物・穀物 | バナナ、白米、玄米 |
| 魚介・肉類 | ツナ、カツオ、鶏むね肉、卵 |
※バナナはトリプトファンだけでなく、炭水化物やビタミンB6も含み、効率よく脳に届くため特におすすめです。
施設現場でも実践!「昼夜逆転」を防ぐプロの工夫
私が管理者をしていた有料老人ホームでは、認知症による昼夜逆転を防ぐために、徹底して「日中の刺激」を管理していました。
これはご家庭や、リモートワーク中心の現役世代の方にも応用できる知恵です。
1. 「座りっぱなし」を断ち切る
日中、ソファーやベッドで横になっている時間が長いと、脳は「今は休む時間だ」と勘違いし、夜の睡眠の質が著しく低下します。
施設では、日中は必ずベッドから離れていただき、デイルーム(共用部)で過ごしていただきます。
ご自宅でも、「布団は寝るとき以外使わない」と決める(刺激制御法)だけでも、脳にオンオフの切り替えを学習させることができます。
2. 夕方の「うたた寝」を全力で阻止する
夕食後、テレビを見ながらうとうと…。これは至福の時間ですが、不眠対策としては最悪の行動です。
この時間に寝てしまうと、睡眠のリズムが崩壊します。
眠くなったら立ち上がって片付けをする、歯を磨くなど、意図的に体を動かして「就寝時間」まで眠気を取っておくことが大切です。
睡眠に関するよくある質問
- 休日に「寝溜め」をしてもいいですか?
-
基本的にはおすすめしません。休日の起床時間が平日より2時間以上遅くなると、体内時計が後ろにズレてしまい、日曜の夜に眠れなくなる「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」を引き起こします。睡眠不足を補いたい場合でも、起床時間は平日と同じにして、お昼頃(15時まで)に15〜30分程度の仮眠をとるのがベストです。
- 寝酒は睡眠に効果がありますか?
-
寝酒は避けるべきです。アルコールは一時的に眠気を誘いますが、睡眠の質を著しく低下させます。アルコールが分解される過程で交感神経が刺激されるため、夜中に目が覚めやすくなり(中途覚醒)、浅い眠りが増えて疲労が取れにくくなります。また、利尿作用による脱水やトイレ覚醒の原因にもなります。
- 雨や曇りの日でもカーテンを開ける意味はありますか?
-
はい、大きな意味があります。曇りや雨の日でも、窓際の明るさは2,000〜5,000ルクス程度あり、これは一般的な室内照明(約500ルクス)の数倍〜10倍の明るさです。体内時計をリセットするには十分な照度ですので、天候に関わらず毎朝カーテンを開けて光を浴びましょう。
- 仕事が忙しく、夜しか運動できません。寝る前の運動はOKですか?
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激しい運動は、就寝の3時間前までに済ませるのが理想です。息が上がるような運動を寝る直前に行うと、交感神経が活発になり、体温が下がりにくくなるため目が冴えてしまいます。寝る直前に体を動かしたい場合は、リラックス効果のあるヨガや、軽いストレッチ程度にとどめましょう。
- コーヒーやカフェインは夕方以降飲まない方がいいですか?
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はい、夕方以降は控えることをおすすめします。カフェインの覚醒作用は、個人差はありますが摂取してから4〜6時間ほど持続すると言われています。就寝時間を23時〜24時とする場合、夕方15時以降はコーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどを避け、麦茶やハーブティーなどのノンカフェイン飲料を選ぶと安心です。
- 布団に入ってもどうしても眠れない時はどうすればいいですか?
-
目が冴えて苦しい場合は、一度布団から出ましょう。「眠らなきゃ」と焦るほど脳は覚醒してしまいます。暖色系の暗い照明のリビングなどで、静かな音楽を聴いたり本を読んだりしてリラックスし、眠気が来てから再度布団に入ります。「布団は眠る場所」と脳に再学習させることが大切です。
まとめ:まずは明日の「朝」から変えてみよう
夜眠れないと、どうしても「夜に何をすべきか」ばかり考えてしまいます。
しかし、ここでお伝えした通り、夜の眠りの質を決めているのは、実は「朝の光」と「昼の活動」です。
記事のポイント
- 睡眠ホルモン「メラトニン」の材料は、朝の光と食事(トリプトファン)で作られる。
- 昼寝は15時まで、20分以内にとどめる。
- 夜眠れないときは、翌朝の起床時間を一定に保つことでリズムを修正する。
いきなり全てを完璧にこなす必要はありません。
まずは明日の朝、「起きたらすぐにカーテンを開ける」。この1つの行動から始めてみてください。
体内時計が整えば、あなたの体は自然と「夜になったら眠くなる」機能を取り戻してくれるはずです。
※生活習慣を見直しても改善が見られない場合や、日常生活に支障をきたすほどの不眠が続く場合は、別の疾患が隠れている可能性もあります。無理をせず心療内科や睡眠外来などの専門機関にご相談ください。

