「クレアチニン値が上がっていますね。このままだと数年以内に透析になりますよ」
医師から突きつけられたその言葉に、目の前が真っ暗になったような気持ちになっていませんか?
インターネットで検索すると「腎臓は一度悪くなると元に戻らない」という絶望的な情報ばかりが目に入り、余計に不安を募らせているかもしれません。
私は看護師として、救急や在宅医療の現場で多くの腎不全患者様に関わってきました。
その経験から、はっきりとお伝えできる真実があります。
確かに、破壊された腎細胞を完全に再生させることは現代医学でも困難です。
しかし、「残っている腎臓の機能を徹底的に守り、透析導入を5年、10年と先送りする」ことは、決して不可能ではありません。
鍵を握るのは「食事」です。
腎臓病において、食事療法は単なる「補助」ではありません。
それ自体が、進行を食い止めるための「唯一無二の治療(保存療法)」なのです。
この記事では、医療現場の視点に基づき、クレアチニン値を安定させ、透析のない未来を守るための「正しい戦い方」を解説します。結論、「無理せずプロの力を使いましょう」です。
なぜ、あなたのクレアチニン値(eGFR)は悪化するのか
まずは敵を知りましょう。
クレアチニンとは、筋肉を動かした時に出る「老廃物(燃えカス)」です。
通常、このゴミは腎臓という「ろ過フィルター」を通って尿として捨てられます。
しかし、腎機能(eGFR)が低下してフィルターが目詰まりを起こすと、ゴミが捨てきれずに血液中に溜まっていきます。
これが「クレアチニン値の上昇」の正体です。
補足:自分のステージを知っていますか?
日本腎臓学会のガイドラインでは、eGFR(推算糸球体濾過量)の値によって重症度(G1〜G5)が分類されます。
特にeGFRが60未満(G3a以降)になると、本格的な食事療法が必要となります。
出典:日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」
腎臓をさらに痛めつける「過剰ろ過」の恐怖
「腎臓が悪いなら、休ませればいい」
そう思うかもしれませんが、実は弱った腎臓ほど「残った正常な細胞が、死んだ細胞の分まで無理をして働く」という現象が起きます。
これを医学的に「過剰ろ過(Hyperfiltration)」と呼びます。
この無理が続くと、残っていた正常な細胞も次々と過労死し、急速に機能が低下します。
この悪循環を断ち切るために避けるべきは、以下の2点です。
| ① 高血圧・塩分過多 | 高い水圧で無理やりフィルターを通そうとし、組織を破壊する。 |
| ② タンパク質の過剰摂取 | タンパク質の代謝産物(尿素窒素)は腎臓にとって猛毒。ろ過のために多大な負荷がかかる。 |
【警告】「自己流の食事制限」が透析を早めるリスク
ここからが最も重要な話です。
「タンパク質が毒になるなら、肉も魚も食べるのをやめよう」
そう考えて、野菜ばかりの極端な粗食を始める方がいますが、これは透析を早める最も危険な間違いです。
腎臓病食の落とし穴「PEW(たんぱく質エネルギー消耗状態)」
タンパク質を減らすと、同時にカロリー(エネルギー)も減ってしまいます。
カロリーが不足すると、人間の体は「自分の筋肉を分解」してエネルギーを作ろうとします。
筋肉が分解されるとどうなるか?
そう、老廃物であるクレアチニンや毒素が体内から大量に発生し、かえって腎臓にダメージを与えてしまうのです。
つまり、腎臓を守るための「正しい保存療法」とは、以下の矛盾する条件を同時に満たす必要があります。
- タンパク質は極限まで減らす(毒素を出さないため)
- カロリーはしっかり摂る(筋肉を分解させないため)
- 塩分は1日6g未満(高血圧を防ぐため)
以上の条件を満たすと、今度は脂質を摂り過ぎてしまい脂質異常症や高脂血症などの悪化に繋がる可能性もあります。
食事管理をするには食品の栄養素やカロリーを知っておく必要があり難しいのです…
計算地獄から脱出し、正確な「保存療法」を続けるために
「低タンパク・高カロリー・減塩・低カリウム」
これらをすべて満たす食事を、スーパーの食材だけで、しかも毎日3食作る。
はっきり言います。
これを家庭で行うのは「不可能に近い」です。
私たち医療従事者やプロの管理栄養士でさえ、電卓を叩きながら頭を抱えるレベルの難易度なのです。
だからこそ、今の腎臓内科の現場では、早い段階から「治療用特殊食品(宅配食・レトルト)」の導入を強く推奨しています。
「手料理へのこだわり」を捨て、食事を数値を管理するための「医療ツール(処方箋)」として捉え直すことが、結果として腎臓の寿命を延ばします。
プロに頼るべき3つの理由
食事があなたの身体を作り、維持します。
病気の進行がそんな食事を難しい物に変え、今までは楽しみだった食事をストレスに変えてしまうことがあります。
特殊技術による「低タンパク米」の活用
通常の白米には多くのタンパク質が含まれています。
これを特殊処理された「低タンパク米(パックご飯)」に変えるだけで、おかずに肉や魚を一品増やす余裕が生まれます。
エネルギー(カロリー)の確保
腎臓病対応の宅配食は、MCTオイルや粉飴などを使用し、タンパク質を抑えつつ高カロリーを実現しています。
家庭料理では難しい「揚げずに高カロリー」などが可能です。
塩分・カリウムの厳密な管理
だし割しょうゆなどの活用により、塩分2g以下でも「味がする」食事を提供してくれます。
ストレスなく継続できることが最大の治療効果です。
具体的に、どのような宅配食を使えば「タンパク質を制限」しつつ、「筋肉を減らさないカロリー」を確保できるのか。
透析予備軍の方に向けた具体的なメーカー比較と戦略を、以下の記事にまとめました。

腎臓病との戦いは、長期戦です。
毎日完璧を目指して疲弊するのではなく、賢く文明の利器(医療用食品)を借りて、一日でも長く「今の生活」を守り抜きましょう。
腎臓病食の宅配食に関するよくある質問
- 食事療法を頑張れば、クレアチニン値は正常に戻りますか?
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残念ながら、一度死滅した腎細胞が再生することはありません。そのため、数値を「劇的に下げる(正常値に戻す)」ことではなく、「今の数値を維持し、透析が必要なレベルまで悪化させない(時間を稼ぐ)」ことが最大の目標となります。
- 水をたくさん飲めば、毒素が流れて数値は下がりますか?
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一概には言えません。脱水気味の方は水分補給で数値が改善することもありますが、腎機能が低下している場合、尿として出せない水分が体に溜まり、むくみや心不全、呼吸困難の原因になります。必ず主治医から指示された「1日の水分制限量」を守ってください。
- 野菜や果物は体に良いので、たくさん食べてもいいですか?
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要注意です。野菜や果物に多く含まれる「カリウム」は、腎機能が低下すると排泄できず、体内に溜まります。カリウム値が高くなりすぎると不整脈や心停止のリスクがあります。「野菜は茹でこぼす(お湯で茹でてカリウムを溶かし出す)」などの工夫が必要です。
- コンビニ食や外食は、もう絶対に食べてはいけませんか?
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絶対にダメではありませんが、工夫が必要です。外食やコンビニ食は塩分と無機リン(添加物)が非常に多いため、「汁は残す」「練り物や加工肉(ハム・ソーセージ)は避ける」「成分表示を見て塩分相当量が少ないもの選ぶ」といった習慣をつけましょう。頻度は週1回程度に抑えるのが無難です。
- 運動不足も原因でしょうか? 運動はしたほうがいいですか?
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かつては「安静」が推奨されていましたが、現在は適度な有酸素運動(ウォーキングなど)が腎保護に有効であるとする「腎臓リハビリテーション」が注目されています。ただし、激しすぎる筋トレは筋肉を壊してクレアチニン値を上げる原因になるため、主治医と相談しながら行いましょう。
- 腎臓に良いサプリメントや漢方薬はありますか?
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自己判断での摂取は非常に危険です。一部のサプリや漢方に含まれる成分、あるいは濃縮されたミネラルが腎臓に過度な負担をかけるリスクがあります。「腎臓に良い」と謳う商品であっても、必ず主治医または薬剤師に相談してから使用してください。
まとめ
「このままでは透析になる」という言葉の重みは、当事者にしか分からない恐怖だと思います。
しかし、ここまで読んでくださったあなたは、もう無防備に怯えるだけではありません。「食事」という最強の武器(保存療法)の使い道を知ったからです。
最後に、本記事の重要ポイントを振り返ります。
- 腎機能低下は不可逆
一度失った機能は戻らない。「現状維持」こそが最大の勝利。 - 自己流の制限は危険
タンパク質だけ減らしてカロリー不足になると、筋肉が分解され毒素が増える。 - 文明の利器(特殊食品)を使う
「低タンパク米」や「調整食」は手抜きではなく、正確な治療を行うための必須ツール。
真面目な方ほど、「私が料理を頑張らなきゃ」と自分を追い込んでしまいがちです。
ですが、在宅医療の現場で多くの患者様を見てきた私からお願いがあります。
ストレスによる血圧上昇も、腎臓の大敵です。
プロの管理栄養士が作った「透析を避けるための食事」を味方につけて、5年後、10年後も、管に繋がれることなく自分らしく過ごせる未来を守り抜きましょう。
まずは、「こんなに美味しいのに数値が守れるんだ」という体験を、一度試してみることから始めてみてください。


