「夕方、散歩に出た親が暗くなっても帰ってこない。警察に電話すべきか、もう少し待つべきか……」
「財布や鍵を持たずにふらっと出て行ってしまい、どこにいるのか見当もつかない」
認知症介護において、「徘徊(行方不明)」は命に関わる緊急事態です。
警察庁のデータによると、認知症に関連する行方不明者の届出受理数は年間1万9,000人を超え、過去最多を更新し続けています(出典:警察庁生活安全局「令和5年における行方不明者の状況」)。
「うちはまだ大丈夫」と思っているご家族ほど要注意です。
徘徊はある日突然始まります。特に冬場や真夏の夜に迷子になれば、発見の遅れがそのまま命取りになります。
この記事では、看護師かつ施設管理者としての経験から、転ばぬ先の杖ならぬ「迷わぬ先のGPS」について解説します。
手軽な「AirTag」で十分なのか? 専用の「GPSシューズ」が必要なのか? あなたの環境に合わせた「正解」を導き出します。
「AirTag」と「GPSシューズ」決定的な違いとは?
追跡グッズには大きく分けて2つの種類があります。
それぞれの特徴(特に弱点)を理解しないと、「持たせたのに見つからない」という最悪の事態を招きます。
1. Apple AirTag(エアタグ)【安い(1個5千円以内)が条件あり】
iPhoneユーザーにはおなじみの「忘れ物防止タグ」。500円玉サイズで、カバンや財布に入れられます。
致命的な弱点
AirTag自体にはGPS機能がありません。すれ違った「他人のiPhone」のBluetooth電波を借りて位置を特定する仕組みです。
つまり、「人通りのない田舎」や「山の中」、「iPhoneユーザーが少ないエリア」では位置情報が更新されず、全く役に立ちません。
2. GPSシューズ・専用端末【高い(1足1万円程度)が確実】
ドコモやソフトバンクなどの携帯電話回線(LTE/4G)を使って自力で位置を特定します。
特に「靴」にGPSが埋め込まれているタイプは最強です。
認知症の方でも、財布やスマホは忘れても「靴」だけは必ず履いて出かけるからです。
GPSシューズには以下の様な靴がありますが、今すぐ購入する必要はないのでスルーして記事を読み進めてください。
【比較】あなたの親にはどっちが合う?
| 項目 | AirTag (エアタグ) | GPSシューズ・専用機 |
|---|---|---|
| 仕組み | 他人のiPhoneと通信 (Bluetooth) | 携帯電話回線 (4G/LTE/GNSS) |
| 精度・エリア | 都市部:◎ 田舎・山道・河川敷:× | どこでも:◎ 地下・トンネル:△ |
| 費用 | 本体約4,980円 月額無料 | 初期+月額制 (月500円〜2,000円) |
| 電池持ち | 約1年(交換可能) | 数日〜2週間で充電必須 |
| 向いている人 | 初期段階・都市部在住 お守り代わり | 徘徊リスク高・郊外在住 確実に見つけたい |
※価格は記事執筆時点の目安です。
外での徘徊対策と合わせて、家の中での「深夜の動き出し」や「転倒」も心配な方は、プライバシーを守りつつ「監視」にならないSwitchBot見守り術も参考にしてください。

AirTagを「お守り」として使う裏ワザ
「まだ警察を呼ぶほどの徘徊はないけれど、念のために何か持たせたい」
そんな初期段階の方や、人通りの多い都市部にお住まいの方には、月額費用の掛からないAirTagがコスパ最強です。
認知症の方に持たせる工夫:縫い付け術
認知症の方は、見慣れないキーホルダーや荷物を「自分の物ではない」と認識して、置いていったり捨ててしまったりすることがあります。そこで、以下の場所に縫い付けるのが有効です。
- いつも着ているコートやジャンパーの裏地(ポケットはNG、出してしまうため)
- 杖のストラップ部分(専用ケースを使用)
- シルバーカー(押し車)の座面下ポケットの奥
【おすすめアイテム】
Amazonなどには「縫い付け用」や「ピン留め用(安全ピン付き)」のシリコン製AirTagケースが安価で販売されています。これを使えば、洗濯の時だけ取り出すことも可能です。
本格的な徘徊には「GPSシューズ」一択
「夜中にパジャマのまま出ていってしまう」「過去に警察に保護されたことがある」
このような場合は、AirTagでは命を守れません。必ず通信機能付きのGPSを選んでください。
なぜ「靴」なのか?
首から下げる「ペンダント型GPS」や「お守り型GPS」は、出かける時に忘れます。
しかし、裸足で出かける人は稀です。
「靴=外出スイッチ」なので、ここにGPSを入れるのが最も発見率が高いのです。
・GPSシューズ(一体型):「うらら」などが有名。靴底に埋め込むため違和感がないが、靴のデザインが限られる。
・インソール型GPS:普段履いている靴の中敷きの下に入れるタイプ。靴を変えても使えるが、厚みで靴が窮屈になる可能性がある。
【重要】自治体の「徘徊SOSネットワーク」を活用する
高いお金を出してGPSを買う前に、必ずやってほしいことがあります。
お住まいの自治体(役所)の「高齢福祉課」か「地域包括支援センター」に行き、以下の制度があるか確認してください。
【役所で聞くべきキーワード】
「親の徘徊が心配です。『徘徊高齢者家族支援事業』でのGPS貸与や、『見守りシール』の交付は行っていますか?」
1. GPS端末の貸与・助成
多くの自治体では、徘徊リスクのある高齢者に対し、ココセコムなどの専用端末を「初期費用無料・月額数百円(または無料)」で貸し出す事業を行っています。民間契約するより圧倒的に安く済みます。
2. 見守りシール(QRコード)
爪や服、靴のかかとに貼るQRコード付きシールを無料で配布している地域もあります。
発見者がスマホで読み取ると、家族に通知が行くシステムです。
3. 個人賠償責任保険のプレゼント
徘徊中に線路に立ち入って電車を止めてしまった場合など、高額な賠償請求に備える保険に、自治体負担で加入させてくれる地域(神奈川県大和市、愛知県大府市など)も増えています。
これらは介護保険とは別の「自治体独自のサービス」であることが多く、担当のケアマネジャーでも詳細を知らないことがあります。ご自身で役所の窓口か包括支援センターへ問い合わせるのが確実です。
もし担当のケアマネジャーが徘徊対策や制度に詳しくないと感じるなら、今後のために「失敗しないケアマネジャーの選び方」を確認しておくと安心です。

徘徊対策に関するよくある質問
- 田舎の実家でもAirTagは使えますか?
-
結論から言うと、おすすめできません。AirTagはGPSではなく、近くにある「他人のiPhone」の通信網を利用します。そのため、人通りが少ない場所や、iPhoneユーザーが少ない地域では位置情報が更新されず、捜索の役に立たない可能性が高いです。
- なぜペンダント型ではなく「靴」のGPSが良いのですか?
-
認知症の方は、財布や携帯電話、お守り袋などを「忘れて」出かけてしまうことがよくあります。しかし、裸足で外に出ることは稀です。「靴」は外出時に必ず身につけるものなので、持ち出し忘れを物理的に防ぐことができ、発見率が最も高くなります。
- GPSの助成金や貸し出し制度はどうやって探せばいいですか?
-
お住まいの自治体のホームページで「徘徊高齢者家族支援事業」と検索するか、役所の高齢福祉課、または地域包括支援センターへ直接電話してみてください。「GPSの初期費用無料」や「月額利用料の補助」を行っている自治体は数多くあります。
- GPSシューズの充電はどのくらい持ちますか?毎日必要ですか?
-
機種や設定(位置情報の更新頻度)によりますが、一般的には3日〜1週間程度持つものが多いです。多くの機種には「バッテリー残量低下通知」機能があり、スマホに通知が来るため、充電切れに気づきやすくなっています。
- 家族のスマホが格安スマホや古い機種でも居場所を確認できますか?
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はい、基本的に可能です。専用のGPS端末(ココセコムやどこかなGPSなど)は、スマホのアプリやWebブラウザから地図を表示する仕組みなので、ドコモ・au・ソフトバンク等のキャリアを問わず、インターネットに繋がるスマホがあれば確認できます。
- 本人が「監視されているようだ」とGPSを持つのを嫌がります。どうすればいいですか?
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「徘徊対策」とは言わず、「万が一倒れた時のための緊急ブザー」や「交通安全のお守り」として説明するのが有効です。それでも難しい場合は、本人が気づかないよう、普段履きの靴の中敷き下にセットできる「インソール型GPS」の利用を検討してください。
まとめ:段階に応じた「お守り」を準備しよう
徘徊は、家族だけで抱え込むと心身ともに消耗します。
「いつ出ていくか分からない」という緊張感は、介護者の睡眠時間を奪うからです。
まだ徘徊はないが心配。
→ AirTagを杖やカバン、上着に縫い付けておく。
一人での外出が増えた。
→ SwitchBot開閉センサーなどで、玄関が開いたらスマホに通知が来るようにする。
道に迷う、夜間外出がある。
→ 役所でGPS助成を申請し、GPSシューズ等を導入する。
→ 地域包括支援センターへ相談し、SOSネットワークに登録する。
まずは数千円のAirTagからで構いません。
「どこにいるか分かる」という安心感を手に入れてください。
それが、あなた自身の心を守ることにも繋がります。
AirTagは1か所だけでなく、複数の物(いくつかのよく持ち歩く物)に付けておくのが安心です。

