「朝になると動悸がして布団から出られない」「夜勤のことを考えるだけで涙が出る」。
こうした変化を感じながらも、「自分だけが弱いのでは」「辞めたら迷惑をかける」と踏みとどまっている看護師は少なくありません。
厚生労働省の調査では、看護職の退職理由の第1位が心身の疲労であり、新人看護師の1割以上が1年以内に退職していることが分かっています。
つまり「心が壊れる前に退職を考える」ことは、決して甘えや逃げではなく、命を守る職業に就く人だからこそ必要な選択なのです。
看護師が心を壊す背景にある現実

看護師の離職率は全産業と比べても高く、特に20代で顕著です。
日本看護協会の調査では、看護師の6割以上が強いストレスを抱えていると回答しました。その主な要因は以下です。
- 人手不足:定時で帰れず休憩も取れない
- 責任の重さ:一つの判断が患者の生死に直結する
- 人間関係のトラブル:上下関係の厳しさ、パワハラやモラハラ
- 働き方の負担:夜勤や長時間残業で生活リズムが崩れる
これらの要因が積み重なり、心や体に危険信号が現れてきます。
さらに厚労省の統計によれば、三交代勤務を続けている看護師の多くが睡眠障害や慢性的な疲労を訴えており、心身への影響は無視できません。
退職を考えるべきサインとは?

身体に出るサイン
- 出勤前に動悸や吐き気がする
- 休日も疲れが取れず眠れない、あるいは寝すぎる
- 胃痛や頭痛が慢性化している
- 風邪を繰り返し、免疫力が落ちている
これは自律神経の乱れが原因となっているケースが多く、長期化すれば治療が必要になります。
心に出るサイン
- 何もしたくないと感じる無気力
- ちょっとしたことで涙が出る
- 家族や同僚にイライラをぶつけてしまう
- 自分は看護師に向いていないと思い込む
こうした状態が続く場合は心の限界に近づいています。
行動や言動に出るサイン
- 遅刻や欠勤が増える
- 仕事中に集中できずミスが増える
- 休日も仕事のことばかり考えて休めない
- 同僚や患者と距離を取るようになる
小さな変化に気づくことが心を守る第一歩です。
職場からのサイン
- 退職者が多く慢性的に人手不足
- 上司や先輩からのパワハラやモラハラ
- 教育体制が不十分で学びを感じられない
- 夜勤や残業が常態化し家庭や生活が犠牲になる
職場そのものが限界のサインを出していることもあります。
体験談:限界を迎える前に辞めた看護師たち

- 新人Aさん
毎日先輩から叱責され、帰宅後に泣き続ける日々。食欲を失い体重も減少。医師に適応障害と診断され退職。現在は健診センターで日勤のみ、穏やかに働いています。 - 中堅Bさん
後輩指導と業務量で連日の残業。休日も疲れが取れず家庭生活に支障。体調悪化を機に訪問看護へ転職し、患者一人に向き合えるやりがいを取り戻しました。 - 子育て中のCさん
夜勤と育児で心身ともに限界。家族の勧めで退職しクリニックに転職。夜勤のない生活で家族時間が増え笑顔を取り戻しました。 - ベテランDさん
管理職として責任が重く睡眠薬なしでは眠れない状態に。このままでは危険と産業看護師へ転職。今は規則正しい勤務で健康を維持しています。

サインを放置した場合のリスク

退職のサインを見て見ぬふりをすると、心身に深刻な影響が出ます。
- 抑うつ状態からうつ病へ進行する
- 適応障害により職場復帰が困難になる
- 燃え尽き症候群で看護師としてのやりがいを失う
- 長期の療養が必要となり生活そのものに影響が出る
また家族への影響も無視できません。子育てや介護と両立している看護師は、心身の不調により家庭生活が崩れ、パートナーや子どもとの関係にも影響が及ぶことがあります。
さらに周囲に理解されず孤立感が強まると、より深刻なメンタル不調へつながる危険があります。
心を守るためにできるセルフケア

退職を決める前に、自分を守る行動も大切です。
- 休養を取る:思い切って休職や有給を使う
- カウンセリング利用:専門家に話すだけで心が軽くなる
- 家族や同僚と話す:自分の気持ちを共有する
- ストレス発散習慣:運動、音楽、自然の中でリセット
- 睡眠と食事を整える:生活リズムを意識する
- マインドフルネスや呼吸法:短時間でできるセルフケア
さらに読書や日記を書くことで心を整理する人もいます。小さな積み重ねが自分を守ります。
食事ではビタミンB群やトリプトファンを含む食品を意識することで、心の安定に役立つとされています。
退職や転職を考えるときの相談先

- 信頼できる上司や先輩
- 産業医や保健師
- 看護協会や労働相談窓口
- 看護師専門の転職エージェント
特にエージェントは非公開求人や職場の雰囲気を知るのに役立ちます。夜勤なし、人間関係が良いなど希望条件を叶える職場を探すサポートになります。
転職活動では、面接時に教育体制や人員配置について確認することも大切です。実際の働き方を事前に知ることでミスマッチを防げます。
また求人票だけでは分からない「残業時間の実態」や「新人教育の有無」を質問することで、自分に合った職場かを見極められます。

退職後に広がるキャリアの選択肢

退職は終わりではなく新しいキャリアの始まりです。
- 訪問看護:患者とじっくり向き合える
- 健診センター:日勤のみで体力的に楽
- クリニック:家庭と両立しやすい
- 企業看護師:安定した勤務環境で働ける
- 介護施設:看護と生活支援を両立できる
- 保育園看護師:子どもの健康を守る役割
- 教育機関や研修講師:経験を次世代に伝える
- フリーランス看護師:ライフスタイルに合わせた働き方
- 認定看護師や専門看護師:専門性を高めキャリアアップ
- 海外での看護活動:語学を活かし国際的に活躍する道もある
自分に合った場所を選ぶことで、看護師としてのキャリアは続けられます。
転職経験者の多くが「もっと早く環境を変えればよかった」と振り返っており、選択の一歩が大きな安心につながります。
まとめ|サインを無視せず、自分を守る選択を

退職サインは「もう無理をしないで」という心と体からのメッセージです。
それを無視して働き続ければ、取り返しのつかないダメージを負うこともあります。
限界を迎える前に、自分のサインを認めましょう。
そして、休む、辞める、転職するという行動は、看護師としても一人の人としても大切な心を守る選択です。
あなたの心と体を守るために、退職や転職は前向きな選択肢のひとつなのです。